東洋医薬学の世界

東洋医薬学の世界

東洋医学と西洋医学とでは、基本となる考え方が違います。ひとことで言えば、西洋医学が分析的・実証的であるのに対し、東洋医学は、総合的・経験的です。したがって、西洋医学的な見地から東洋医学の治療法を考えると、納得できないこともあるでしょう。

陰陽の概念

万物(自然)は陰陽二つの働きで成立している
自然発生的に生まれた東洋医薬学の療法
私たちは体のどこかに異常を感じたとき、無意識にそこに手をあてます。これは本能的なもので、古人も同じことをしていたと思われます。そのうち、手をあてるだけでなく、押したりなでたりする、あるいは温めたり、石か何かで刺激すると効果が上がる、このような方法に古人が気付くのに、さほど時間はかからなかったでしょう。このような経験を積み重ねて、鍼や灸が考案されたと思います。
漢方の古典である「素問」・「霊枢」には「石鍼」という文字が記されています。つまり、石を鍼として用いていたのです。腰や肩が痛むとき、あるいは内臓が悪いとき、そこに石鍼で施術すれば治ったという経験を積み重ねることにより古人は経穴(ツボ)を発見したと思われます。薬草についても同じことがいえます。たとえば、山ゴボウは山野によく自生している多年草ですが、この根は「商陸」といい、強烈な利尿作用と瀉下(大便を下す)作用があります。これを初めて食べた人は大変驚いたことでしょう。体がガタガタになるほど脱水するからです。しかし、一度経験すればそれが人にも伝えられ、次から気をつけることになるでしょう。そして、浮腫があって便秘している人がいればその作用を考えて、山ゴボウを食べさせたかもしれません。数々の漢方薬もこのような経験がたくさん積み重ねられて発見されたと思われます。

経験療法を陰陽論・五行説で体系化

経験の積み重ねは、どこまでいっても経験です。この経験を治療法として体系化して初めて医学となります。
東洋医学の体系化に基本的な概念をもたらしたものが「老子」の無為の思想でした。つまり、「自然のリズムに従って生活する」という考え方です。では自然のもっているリズムとは何か。またこれをどう規制し、認識するのか。これを説明するのに用いられたのが「陰陽論」であり、「五行説」だったのです。

陰陽の働きやリズムには三つのタイプがある

万物は陰と陽に分けられる

宇宙の万物は、すべて陰陽の二元に分類されます。天、これは陽の代表です。地、これは陰の代表です。男が陽・女が陰です。地球上に存在するもので陰陽に分類できないものはありません。

陰陽は変化するものである

あらゆるものが陰陽に分類されますが、自然界をみてもわかるように、これらは固定的な概念ではなく、陰と陽はたえず一定のリズムをもって変化しているのです。たとえば一日には昼(陽)と夜(陰)がありますが、いつまでも昼ではなく、また夜でもないのです。適度なリズムを保ちながら刻々と変化しています。一年でいえば冬(陰)から春になり、そうして夏(陽)が来ます。最もいつも公式通り、つまり暦通りにはなりません。春が来たというのに、いつまでも寒かったり、暑いはずの夏がひどく涼しいこともあります。従って、古人は自然の陰陽の移り変わりをよく観察し、それに合わせて生活しようとしました。その結果、自然は一定のリズムをもって変化していることを発見し、暦や自然の運気の説(五運六気ともいい、氣候の規律と発病の関係を研究した古代の学説)などを考え出しました。

陰中に陽あり・陽中に陰あり

世の中のものは、すべて陰陽に分類されるとともに、たえず一定のリズムをもって変化(消長)を繰り返していますが、純粋に陰だけ、あるいは陽だけ、というものはありません。陰の中にも少しは陽の要素があり、陽の中にも少しは陰の要素があると考えます。たとえば、天は陽ですがいつも快晴ではないし、太陽がいくら照り付けても日陰のところが必ずできるようなものです。昼間は陽ですが、太陽が出たときと、正午ごろと夕方では陽の量が違います。私たちには、陰だけ、あるいは陽だけのものはよくなく、適当に陰陽が交じっているのがよいのです。つまり陰陽のバランスがとれているのがよいのです。夫婦でも、兄弟でも、職場でも、陰性な人と陽性な人が交ざりあって、バランスを保っているのです。このバランスが崩れて陽ばかり、あるいは陰ばかりになると、何かと不都合が生じ、家や職場に諍いも起こりましょう。陰陽の変化とバランスは、陰陽論の大きな特徴です。この考え方を基礎に、人体を確認し、また、生体の働きや疾病を解明するのが東洋医学です。この基本的な考えは「自然のリズムに従う」ことですが、自然は変化し、疾病も人間も絶えず変化しているのですから、固定的な考えでは病気を捉えることはできないのです。

人体の陰陽

人間も自然の変化に従って生命活動をしている

天人合一説

古人は、人間は自然の一部分なので、自然と共に生活するのが長生きの秘訣だと考えました。そこで自然界を観察し、そこに一定の相対的なバランスやリズムがあることを発見したのです。それを陰陽により規制し、認識しました。自然に陰陽があり、それに合わせて生活する人間にも陰陽があるはずで、自然を大宇宙とするなら、人間は小宇宙だと捉えました。これを「天人合一説」といいます。自然界の陰陽を考えたように、人体も陰陽に分類し、そのリズムやバランスを考えてみると、体の健康や病気のことがよくわかります。

体の陰陽

体表面と内臓
体表面と体内に体を分けた場合、血管の通っている場所は陽、内臓のある場所は陰となります。しかし、陰中にも陽があり、陽中にも陰があることより、内側にある血管を陰とした場合は、皮膚は陽となります。

五臓六腑

腑、つまり胃、小腸、大腸、胆、膀胱などは中腔性臓器といって、実質が何も入っていません。物を入れてもすぐに出してしまいます。したがって腑は陽です。それに対して臓は実質が詰まっているので陰に属します。
五臓も陰陽に分けられます。心は臓の中で一番活動的なので陽です。肺も活動的なので陽です。これに対して、目に見えるほどの活動がない脾、肝、腎は陰に属します。さらに、これらを陰陽に分けると心が陽、肺が陰となり肝が陽、腎が陰となります。

体の上下

身体上部は陽、下部は陰です。腹部は陰で、背部は陽に属します。その中でも肩背部は陽中の陽、腰は陽中の陰、胸は陰中の陽、腹は陰中の陰となります。

気と血

体には血液やリンパ液、神経、ホルモンなどがあり、これらを東洋医学では気と血にわけて陰陽に分けます。
気:エネルギー、活動力などのことで、これは陽に属します。その中でも熱性で動的な気を「陽気」といい、寒性で静的な気を「陰気」といいます。
血:血は水性ですから陰です。しかし、血には体を温める作用があるので、働きの面から分けると陽に属します。

バランスの良し悪しが健康のバロメ-タ-

なぜ体の部位陰陽に分けるのかといいますと、病気とは、陰陽のバランスが崩れた状態であると考えるからで、また治療とは、そのバランスを回復させるためのものであると考えるからです。

陰陽の働きと虚實

からだの陰陽の均衡を保つことが東洋医学の治療法である

陰陽のバランスを決める「気」と「血」

体の各所は陰陽に分けられますが、陽の場所には「陽気」や「陽血」、陰の場所には「陰気」や「陰血」があります。また、これらは身体各所をめぐって、それぞれの働きをしています。そして気血の量はいつも一定ではなく、自然の状態に合わせて、めぐる量も変化します。たとえば、昼間は体表面の陽の部分に陽の気血が多くなりますし、夜間は内臓に陽の気血が多くなります。また、夏は体表に陽気が多くなり汗を出させます。逆に冬は陽気が少なくなり、汗が出ないようにして体を温めます。つまり、自然のリズムに合わせて、陰陽の気血もバランスを保ちながら、一定のリズムをもって変化を繰り返しているのです。ところが、夏でも涼しかったり、冬でも暖かかったりして、氣候はつねに変化します。また、夏に冷房で冷やしすぎたり、冬に暖房を強くしすぎる事もあるでしょう。雨の日も風の日もあります。そのようなときに、体はあわただしく環境の変化に応じて、気血のめぐりをそのつど調整し、健康を保とうとします。しかし、精神的あるいは肉体的過労や、房事(セックス)過多、飲食の過不足などにより、気血のめぐりに変調をきたすことがあります。そのようにからだの調子が不安定なとき、さらに環境の変化や氣候の急激な変動が加わると、ますます気血のめぐりは乱され、身体各所に気血の過不足が生じるのです。これを東洋医学では病気といいます。そして、それを陰または陽の場所の、陰または陽の気(血)の過不足ととらえ、その変調を整えようとすることが、病気を治療し、健康を保つことだと考えたのです。

陰陽過不足の4タイプ

  1. 陰虚証(陰の気血の不足):気や血の不足した状態を「虚」といいます。陰虚証はふたつのタイプ、陰気の虚と陰血の虚があります。
    (1)陰気の虚:陰気は、寒または冷の性質を持っています。また、消極的で、入る、縮む、閉じるなどの性格をもっています。従って陰気が不足すると寒の性質のものがなくなり、熱症状をあらわします。また、陰気は体の内部、すなわち陰の部位や臓に多くありますから、陰虚証といった場合の多くは臓の気の虚を意味します。たとえば、脾虚証の場合は、陰である脾臓の陰気が不足して「ある一定の病理状態(これを証という)をあらわしている」ということです。脾気が虚すると熱が発生します。熱は、陽性で外へ出て行こうとする性質をもっていますから、この熱は脾(陰)と相対的な関係にある胃(陽)にまで及んできて胃熱となり、胃痛・胸焼けなどの症状を表します。

    (2)陰血の虚:陰血とは、寒冷的で水の性質をもったものです。従って、身体各所、特に臓腑(体表に対して陰の部位)を潤し、やわらげる働きがあります。この陰血が不足すると、水が不足しますから乾きの症状をあらわします。陰血は当然のことながら、陰の臓に多くあります。肝には血が多くあります。この肝血の中の水が不足すると、血が乾き、熱が出ます。ただし、陰気の虚によって発生した熱よりは穏やかです。その熱の一分は、陽の部位に出てきますが、多くは内熱となり、血の熱としてこもってしまいます。そのため陰血の虚を単に、血虚または血燥、あるいは結熱などともいい、足のほてりや筋肉痛などの症状をあらわします。

  2. 陰実証(陰の気血の過剰):気や血が過剰になり、停滞・充満した状態を「実」といいます。陰実証にも陰気の実と陰血の実に2タイプがあります。
    (1)陰気の実:陰気とは、寒・冷の性質を持っています。また、消極的です。従って陰気が過剰になると、寒の性質のものが多くなりますから、寒冷症状を表します。また、陰気は身体内部に多くありますから、陰気が多くなれば内が冷えてきます。たとえば、腎はもともと陰気の多いところです。その腎の部位でさらに陰気がさらに多くなれば、冷えて水分まで滞るようになり、下痢や手足の冷えなどの症状を表します。

    (2)陰血の実:血が停滞した状態をいいます。血の性質はもともと水ですが、働きの面から見ると熱性です。従って血が多くなれば、熱が多くなります。血の停滞による陰実証は、陰の部位における血実証といえます。別の言葉で、これを「瘀血証」ともいいます。たとえば、肝は血の多い臓ですが、もし肝血が多くなれば、これが瘀血となって、肝臓病や痔疾、婦人病などの原因になります。

  3. 陽虚証(陽の気血の不足)
    (1)陽気の虚:陽気とは、温または熱の性質をもっています。また積極的で、出る、伸びる、昇る、開くなどの性質があります。陽気が不足すれば、熱の性質のものがなくなりますから,寒冷症状があらわれます。そして活動力が低下しますから、元気もなくなり、いつも身を横にしたくなったりします。陽気は身体外部、すなわち皮膚や手足に多くあります。また胃にも多くあります。たとえば胃の陽虚証と言った場合は、腑(陽)である胃が冷えて活動力が低下した、という意味です。あるいは、肺は臓の中でも陽臓で、陽気をめぐらす働きがあります。もし肺の陽気が不足すれば、そのめぐりが悪くなり、体が冷えて風邪などにかかりやすくなります。

    (2)陽血の虚:陽血とは、血中の熱性を意味しています。血そのものは水性ですから、陰にも属しますが、血が不足すれば冷えるわけですから、血には陽の性質もあるわけで、これを陽血といいます。陽血が不足すれば、熱性のものがなくなりますから、やはり寒冷症状があらわれます。これは、陽気の不足と同じですが、手足が冷え、立ちくらみ、動悸などの症状をあらわすのが特徴です。今で言う貧血症や低血圧症がこれに属します。たとえば、肝の陽血が不足すると、若い人であれば不妊症となり、月経不順、冷え性などの症状をあらわします。この状態を亡血とも言います。

  4. 陽実証(陽の気血の過剰):陽の部位における陽の気、または血が充満、停滞した状態をいいます。
    (1)陽気の実:すでに述べたように、陽気、すなわち熱性のものが充満するわけですから、熱症状がおもにあらわれます。たとえば、陽である皮膚に陽気が多ければ発熱することがあり、また陽である胃に陽気が充満すれば、水分が蒸発してしまい便秘となります。

    (2)陽血の実:血の充満した状態です。血が多くなれば、熱も多くなります。つまり血熱状態ですが、これが陽臓である心に起こります。そうなると、今で言う本態性高血圧・半身不随・心臓病などになりやすくなるのです。

五行説の概念

万物の現象は、五つの要素で成立し、関係し合っている

古代中国の自然哲学に「陰陽論」がありますが、これから派生したものに「五行説」というものがあります。五行とは、すべての事物・現象は五つに分類でき、かつそれらは互いに深い関係(相生・相剋の関係)にある、という思想です。東洋医薬学では、この五行説を診断や治療に用います。ただし、余り機械的に運用すると観念論に終わってしまいます。陰陽論もそうですが、五行説の場合も病気が治る、という事実が先にあり、これを後人にいかに伝えるかを考え、治療の体系を組み立てるために導入されたものです。

五つの分類とその病理

インドの四大説は地・水・火・風。宮本武蔵の「五輪の書」は、地・水・火・風・空でした。五行説の五つの要素とは、木・火・土・金・水のことです。


自然:方位は東、季節ははる、自然現象では風
人体:肝・胆、目、筋
食べ物:鶏肉、スモモ、酸味のあるもの
病理:臓の中で木にあたる肝の気が虚すると、病気になり、筋肉痛や眼病になります。また怒りっぽくなります。あるいは涙が出やすくなり、目や顔色は青っぽく、臊臭い体臭がします。逆に怒りすぎたり、筋肉を使いすぎたり、風にあたりすぎると、肝氣が虚しやすくなります。春は、肝の気が盛んになる時期なので、通常、肝虚証はすくなくなりますが、春になっても肝氣が旺盛に成らない人もいます。そういう人は鶏肉、スモモなどを食べ、味では酸味のものをとればよいとされています。ただし、これは肝が虚したときだけで、肝が実となり、熱を持ったようなときはあてはまりません。


自然:方位では南、季節では夏、自然現象では暑さ
人体:心、小腸、舌、血管
食べ物:粟、羊肉、アンズ、味では苦味
病理:臓の中で火にあたる心の気が虚すると、病気になります。一番大切な心の気が虚するわけですから、場合によっては死に至ります。心氣が虚すると、よく笑うようになり、汗が出すぎて舌や顔が赤くなります。また体臭は焦げ臭くなります。逆に喜びすぎたり、暑さにあたりすぎたりすると、心に負担がかかります。心はいつも活動していて、熱の多い臓ですから暑くなると心に負担がかかります。そこで、夏になると陰性である心氣が盛んになり、心の熱を抑えるように働きます。もし、心氣が盛んにならないと、心に熱がこもります。そのようなときは、苦味のある食べ物や、粟、羊肉、アンズなどをとるとよいとされています。


自然:方位では中央、季節では土用(この土用は、各季節にすべてあります。)
人体:脾、胃、口、肉
食べ物:キビ、牛肉、ナツメ、味は甘味
病理:臓の中で土にあたる脾の気が虚すると、食べ物の消化吸収が十分でなくなり、筋肉に力がなくなり、唇の色が悪くなります。また脾の気は、悩みすぎたり、湿気の多いところで生活すると、虚しやすくなります。各季節の土用は、脾の気が旺盛になる時期です。しかし、旺盛になれなくて、疲れやすい、体がだるい、食欲がない、と訴える人もいます。そのようなときは、甘いものやキビ、ナツメ、牛肉などをとると良いとされています。


自然:方位では西、季節では秋、自然現象では乾燥です。
人体:肺、大腸、鼻、皮膚
食べ物:米、馬肉、モモ、味では辛味
病理:臓の中で金にあたる、肺の気が虚すると、感冒や鼻の病気になります。それから悲しみやすくなり、肌は白っぽく、体臭は生臭くなります。また悲しみすぎたり、乾燥した場所にいると、肺がやられてしまいます。秋は肺の気が旺盛になる時期ですが、旺盛になれないと、枯葉を見ても憂い沈むようになります。このようなときは、馬肉やモモ、辛味のあるものをとるとよいとされています。


自然:方位では北、季節では冬、自然現象では寒さです。
人体:腎、膀胱、耳、骨
食べ物:豚肉、豆、クリ、味では塩辛いもの
病理:臓の中で水にあたる腎の気が虚すると体内に水分が多くなります。水肥りの人の多くは腎が虚しているからです。また足が弱くなり、耳も遠くなります。あるいは体や耳が黒っぽくなります。また鹹味(塩辛い味)のあるものをとりすぎたり、恐れおののくことが多いと、腎気が虚してしまいます。冬は腎気が旺盛になり、水分を少なくして冷えないようにします。したがって冷えやすい人は、腎気を旺盛にするために、豚肉やクリ、豆などをとるのが良いとされています。

東洋医薬学の解剖・生理

東洋医学も医学ですから、解剖学や生理学があります。しかし、それは現代医学とはまったく違ったものです。考えようによっては、幼稚で迷信じみたものと思えるかもしれません。しかし、これは鍼、灸、あるいは漢方薬を使って治すのに便利なように考え出されたものです。

体の部位の考え方

東洋医薬学では治療するとき、まず、体のどこが病んでいるのかを知らなければなりません。そのため、人体をいく通りにか分け、「表裏内外」・「上中下」・「臓腑経絡」などの言葉によって分類します。もちろん、これらは陰陽にも分けられます。

「表裏内外」

体を深さでみた分け方が「表裏内外」で、表裏内外も陰陽と同じく、相対的なものだと考えてください。たとえば、皮膚は表で、内臓は裏ですが、皮膚組織だけを考えてみると、表面は表で、血管の流れているところは裏となります。そして、表は陽で裏は陰です。
内というのは、臓と腑のある場所ですが、臓と腑では、腑が外、臓が内となります。外というのは臓腑以外の表裏を含み、ここには皮毛(皮膚)・血脉(血管)・肌肉(脂肪)・筋(筋や腱)・骨があります。

「上中下」

「上焦」・「中焦」・「下焦」の三つに分かれ、これらを合わせて「三焦」といっています。三焦は、現代医学で言えば自律神経にあたり、具体的な臓腑はなく働きだけがあります。
上焦:胸部をさし、おもに呼吸、心拍機能を司り、肺から気、心から血と熱をつくりだしています。
中焦:上腹部の臓腑を司り、おもに消化機能を営むところです。
下焦:下腹部(腎・膀胱・大腸)を司り、排泄機能、生殖機能を営むところです。

「臓腑経絡」

経絡とは経脈(体を上下に通る脉)と絡脈(左右に通る脉)のことで、おもなものが十二本あります。十二本の経絡は体表に分布し、内部では臓腑とつながって、内外を網の目のようにめぐっています。経絡は、生命活動の基本となる「気・血」を運んで、それぞれの生理作用を円滑に行なっているわけですが、経絡上に関係ある臓腑や部位に変調をきたす、ある特定の部位に反応が現れます。この反応点を経穴(ツボのこと)といいます。東洋医薬学の鍼・灸治療では、経絡の異常を診断し、経穴に治療を施すわけですから、各経絡がどこを通っていて、どの臓腑に関係しているかを知ることは重要です。

十二経絡と臓腑の流れ

足太陽系-膀胱-足少陰経-腎
手太陽経小腸手少陰経
足陽明経足太陰経
手陽明経大腸手太陰経
足少陽経足厥陰経
手少陽経三焦手厥陰経心包

東洋医薬学の生理

体の内側に臓と腑があり、その外側の「表・裏」には、各臓腑とつながった各経絡が流れていますが、この臓腑経絡には「気・血」が巡っていると考えます。この気血の流れに過不足(虚・実)が生じると病気になるわけです。いいかえれば、病気を気血の流れの過不足として認識し、それを治療しようというのが東洋医薬学なのです。

気血の生成と働き

気血はどのようにしてつくられるのか、働きとともに考えて見ましょう。
私たちが陰食物をとりますと、脾の命令により、胃・大腸・小腸などが働いて消化し気血が作られます。気には宗氣・陽気・陰気の三つがあり、それぞれの働きを持っています。

宗氣:陰食物から生成された精と、吸入した空気が合してできたもので、胃で作られ、上焦(胸)に昇って呼吸作用の原動力となります。

陽気:気の中の陽気は、胃から肺に行き、肺の力によって全身に送られます。熱性で活動的ですから、胃から直接体表に出て汗を出すことがあります。温かいものを食べると汗が出るのはこのためです。しかし、通常は経絡の流れにそって全身をめぐります。昼間や夏は陽経脈に多く集まり発汗作用を促し、夜間や冬は陰経脈に多くなり、体を温めます。陽気のことを「衛気」ともいい、これは胃にもあって、胃を動かす力ともなります。

陰気:胃で作られる気で、胸に昇って経脈中に入り、血をめぐらせます。陰気は「営気」ともいい、熱を冷ます働きがあります。

:胃で作られた血は、陰気の作用で経脈中をめぐり、体の各所に栄養分を届けます。血の性質は陰性、つまり全身を潤す水の作用がありますが、もう一方、陽性の熱作用もあり、全身を温める働きもします。

気と血の関係

血は経絡内を通って全身をめぐっているのですが、その血を動かしているのが気です。現代医学でいうと、血は血球、気は血中の酸素かもしれません。たとえば、日本の主要幹線を走る列車を考えてみると、その電気エネルギ-が気で、列車が運ぶ必要物資が血です。人間は生活必要物資がなくても、又それを運んだり保存したりするためのエネルギ-がなくても生きることはできません。電気があれば冷凍保存などで一時的に列車が止まっても生活はできますが、やはり物資の流通がないとパニック状態が起こってしまいます。なおこの物資を運ぶためのレールが経絡です。

臓腑経絡の生理

東洋医学でいう、臓腑及びそれに続く経絡は、現代医学の生理学とはだいぶ違います。たとえば、肝及び肝経、胆及び胆経などが悪いからといって、現代医学でいう肝臓が悪いとは限りません。ほかの臓腑の場合も同じです。

肝(陰)と胆(陽)

肝には肝経が続き、胆には胆経が続いて、それぞれの部位の働きを司り、また栄養を送っています。肝は「魂(こん)」といわれる先天の気をもっています。これに脾胃で作られた気が合わさって肝氣となります。

肝は血を集めるところ

肝氣には、ものを集める働き、つまり収斂作用があり、おもに血を集めます。そうして貯蔵された血は、必要に応じて全身に送られるのです。この血はもちろん脾・胃で作られたものです。肝は肝気によって集められた血によって活動的になります。血の中の陽気が働くのです。そのため古典では「肝は将軍の官」と表現されていて、これは陽気ではなく陽血による活動力をいったものです。この活動力は陽である胆に出てきますので、胆気ともいいます。

肝気・胆気が旺盛な人の気質

肝気が良く働いて血が多い人、つまり、胆気のしっかりした人は決断力があります。何事も積極的にテキパキとかたずけます。言葉もハキハキしていて、怒っているようにさえ聞こえるものです。
また、なにかを始めると途中でやめるのが苦痛です。そのために血が少なくなり、怒りっぽくなります。そして、のぼせてフラフラしたり、偏頭痛、不眠などになります。

肝血の働き

:目は血の力によってよく見えているのです。もし血が少なくなると、目そのものが小さくなります。また、近視、遠視、白内障などになります。したがって産後などで血が少なくなっている人は、目を使いすぎてはいけないのです。熟睡できるのは、血が多くあって、昼間その血が目に作用してよく働き、夜になると肝に帰る、というリズムができているからです。

:筋は血によって養われ、また血の力によって活動できるのです。ですから、何かを根気よくやるためには血が必要なのです。そのためには、肝気がしっかりしていなければなりません。しかし、肝気がしっかりしていても、使いすぎると血が不足します。今でいう神経痛・腰痛など筋肉痛の多くは、肝血の不足から起こります。

陰器:肝経は、陰器を通ってっています。また陰器は筋でできています。したがって、生殖器が正常に働くためには、血が多く必要なのです。男性の場合なら、頭でいくらその気になっても、血が足りないとものの役に立ちません。陰萎は血の不足から起こるのです。女性の場合も同じです。血が少ないと不感症になったり、不妊症になります。婦人病の大部分は、血がかかわっています。

肝気が盛んになるのは春

肝気は、春になると盛んになるといわれています。自然界においても陽気が多くなり、植物も芽を出し、虫も動き始めます。人間も自然界の動きに応じて、活動し始めるときなのです。そのため肝気が盛んになり、血を多く集めて活動しようとするのです。春になるとモヤモヤするのはこのためです。しかし、体質的に肝気の少ない人は、春になるとかえって体調をくずします。

肝の五行説

五行説では、肝は脾を剋し、また肝は心を生む。という関係にあります。以上の生理でおわかりのように、肝は肝気によって脾から血を取り上げています。つまり、脾をいつも困らせているのです。この関係を肝は脾を剋す、といったのでしょう。肝に集められた血は、心が支配する血脉によって各所に送られます。これは母(肝)から子(心)に物(血)を与えているのです。この関係を相生関係といったのでしょう。

心(陰)と小腸(陽)

心には心経が続き、小腸には小腸経が続き、経絡上には経穴(ツボ)があります。心は「神」といわれる先天の気を持っています。これに脾・胃で作られた気が合わさって心気となります。

心は熱を抑える

心気には、ものを固める作用があります。つまり浮き上がろうとするのを引き閉める作用です。従って心気は陰気であり寒気であるとも言えます。では、何を引き締めるかというと、それは心の働きなのです。心はいつも休みなく活動していて、熱の多い臓器です。また血脉を支配し、肝を助けて血を全身に送ります。したがって、心及び血脉が熱を持ちすぎないように、そして、血がサラサラと流れるように、たえず心気が熱を抑えるように働いているのです。もし、心気が虚すると、心臓や血管に熱が多くなり、高血圧症や心臓病になります。心は大切な臓ですから、古典では「君主之官」といっています。

心の作用

:舌は心の支配部位で、心の病状が現れます。体内に水分や瘀血が多くなると舌は大きくなります。逆に心や小腸に熱を持つと、小さくなって赤くなります。

血脉:心気が正常であれば、血はサラサラと流れます。しかし、心気が虚して熱が多くなると、血脉にも熱が多くなり、動脈硬化や半身不随の原因となります。

心に宗氣が作用して呼吸活動を行なう

宗氣とは、飲食によって脾・胃で作られた気と、呼吸によって吸い込まれた空気とが合わさってできた気のことです。この宗氣は、胸に集まり、蓄積されます。これを気海、または胸(上焦)の陽気といいます。宗氣は胸を出発点として心経に作用し、呼吸の原動力となります。宗氣が弱くなった場合は、心気の不足とは異なり、心そのものの活動力が弱くなり、呼吸困難を起こします。

心気が盛んになるのは夏

心気は夏に盛んになります。夏は自然界の陽気が最高潮に達します。つまり暑くなります。そうなると熱の多い心は、外界の暑さによってさらに熱が多くなり、そして、その熱を抑えるために心気が盛んになるのです。

心の五行説

五行説では心は肺を剋し、また脾の母のあたる、という関係にありますが、それを生理の面から考えると次のようになります。心は熱を生み出す臓です。その熱は心の近くにある肺をも熱してしまいます。つまり心はいつも肺を困らせているのです。あるいは次のようにも考えられます。心は心気が少なくなると熱を持ちますので、気をめぐらす役目のある肺から、いつも心気(陰気)を取り上げているのです。これを相尅関係といったのでしょう。心は血を血脉によってめぐらしますが、その血を作るのは、心からみて子にあたる脾です。その関係を相生関係といいます。

心と小腸の関係

心(陰)の陽にあたる小腸の働きについて説明しておきましょう。小腸は広義の胃に属します。胃で消化された栄養分は、小腸において気と血に分けられて、ここから胸に昇っていきます。そのため古典では小腸のことを「受盛の官」といっています。同時に小腸では水分が吸収されその水は膀胱に送られます。そもため、小腸の働きが悪くなると、水のような下利や浮腫が起こります。このような時は、小腸は胃の一部と考え、脾とともに治療することが多くなります。